一応興味はある。
 彼は一体何者なのだろう、と思わないこともない。
 しかし、あえて知ろうとも思わない。
 そこまでの興味は無い。



 骸様の部屋は、ダブルサイズのベッドを見知らぬ少年が占領していることをのぞけば、前に入った時から何も変わっていなかった。彼は 、あごのすぐ下まで掛け布団を被って、あおむけで眠っていた。骸様も俺も黙っていると、すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。
 そういえば、彼の顔をまともに見るのは初めてだ。そして、改めて眺めても、やはり彼は地味で平凡だった。特に美しい訳でも、逆 に醜い訳でもない。見れば見るほど、どこにでもいそうな普通の少年だ。およそ個性と言う物が見えない。まぶたを閉じたせいで、まつ げが長いのがわかったが、だからどうという訳でもない。
 骸様はベッドの傍らに膝を付き、少年の顔を覗き込んだ。好き勝手な方向に伸びた薄茶の髪に指を入れながら、囁く。
「綱吉くん、昨日お話したでしょう?千種です。あなたの傷を診に来てくれたんですよ」
 母親が眠る子どもに語りかけるような、もしくはそれを模した幼い少女の人形遊びのような、優しく甘い声だった。その声にも、 髪を梳く白い指にも全く反応せずに、少年は眠り続けている。
「さ、千種。お願いします」
 骸様が無造作に布団をはいだ瞬間、俺は少し驚いた。
 『綱吉くん』は未だに服を着ていなかった。少なくとも、俺の目に映った上半身は。
「……血は止まったようですね」
 促すように骸様が彼の隣をどいたので、俺は当初のいいつけを果たすことにする。すでに骸様の手で(だろう)当てられていたガーゼを 剥がすと、傷跡の形に赤黒い血が固まっていた。傷は浅く、化膿もしていない。
「消毒だけで良いと思われますが」
「一応薬を塗ってあげてください。跡になったら大変ですからね」
「はい」
 軟膏を塗りつける指先に、乾いて盛り上がった血の感触が伝わる。本当に小さな、浅い傷だ。本来ならここまでしなくていいほどの。
 しかし、骸様が過保護になるのも頷けるほど、弱弱しい生き物でもある。体中のどこもかしこも薄くて細くて小さい。骨格から華奢で、 骨まで細い。そこに申し訳程度の肉(脂肪も筋肉もほとんどない)が付いて、生白い肌がそれらを覆っている。日本と言う世界一安全な温室の中で育つと、こんな人間が 出来るのだろうか。
「どうもありがとう、千種」 
 骸様は、俺と彼(会ったばかりの、話したことも無い人間を名前で呼ぶ気にはどうしてもなれない)の間に入ると、丁寧に布団を掛けな おした。
「彼、は、いつ目を覚ますのでしょうか」
「さあ、わかりません」
「何か対策を?」
「そうですね……しばらくは、寝たいのなら寝かせてあげましょう」
「……栄養補給の点滴をしましょうか」
「いえ、大丈夫です」
 骸様はやけにきっぱりと言い切った。ならば俺は従うだけだ。
 首と布団の間に隙間が出来ないよう上から抑えてやり、仕上げに軽く肩のあたりを叩く骸様は、やはり母親かそれを模する少女のよう だった。





作話トップ