彼は地味な少年だった。 これと言って特徴が無い。 全体的に色素が薄いのと、薄くて細くて小さい体が、特徴的と言えば特徴的だった。 だが、登場シーン自体のインパクトにかき消されてしまう程度のものだ。 ……まあ、そのインパクトが、強すぎたのも、多分にあるだろうが。 翌朝、何事も無かったように(ただし上機嫌のままで)(ちなみに骸様は何事があってもたいがいは何事もなかったような顔をする)骸様は寝室から出てきた。それとなく後ろを覗うが、続く者はない。いつも通り片付いた部屋が一瞬見えて、次の一瞬に扉の向こうに消えた。 「おはようございます骸様」 「おはよう千種。犬は帰っていないのですか」 「はい。全くあいつは……」 「まあ、保健所に保護されていなかったら、それでいいですよ」 「……はい」 それに関しては、少し、不安だ。 俺の不安を見透かして、骸様は笑う。 「大丈夫ですよ千種。ちゃんと迷子札つけたでしょう」 そういえばそうだった。 心配事が一つ片付くと、どうしてもあの少年のことが気になってくる。何者なのか? 何故意識を失っていた?意識はまだ戻っていないのか?それから 「彼が気になりますか、千種」 驚いた。いつのまにか、印象的すぎる色違いの目が俺をじっと見ていた。 「無理もありません」 叱られるかと思ったが、何故だか骸様は嬉しそうだった。 「何者ですか」 「クフフフ、それはね千種。ヒミツです」 「わかりました」 「でも、名前がないと呼ぶとき不便ですよね」 「はい」 「つなよし君です。彼」 「つなよし」 「はい。そう呼んであげてくださいね」 呼ぶことがあえるのだろうか? 「彼と僕とは永い付き合いになります」 「わかりました」 やはり、あの手首の傷は、骸様との契約の証なのだ。鋭利な刃物でほんの少し引っかいただけの、小さな傷。もう跡すら消えてしまったが、かつて俺と犬の体にも付けられた。 いつでも必要なときに、彼のものになる為のしるし。 「どうということもないと思いますが、後で傷の具合を見てあげてくれますか」 「はい。……では骸様、彼の意識は」 ならば、彼の意識を支配した骸様が、彼の意識を封じたのであろう。抵抗が激しかったのだろうか。大したこともできそうにない、弱弱しい体をしていたが。骸様や犬のように特殊な能力があるのか? 「戻りません。少し困っています」 「あれは骸様のご意志ではないのですか」 「そうとも言えるし、そうではないとも言えますね。望んだ結果ではないはずなのですが、彼の寝顔を見ていると、不思議とこれが最上のように思えてくる」 珍しく煮え切らない返答だ。しかし俺はそれより他の部分が気になった。 「寝顔」 「そう。あれは眠っているだけなんですよ」 「寝てるんですか?」 「はい。ただし、何をしても起きません」 そう言うと骸様は、大きな溜息を付いた。しかし直後に笑みが浮かぶ。困るのが楽しいと言ったところだろう。 「一応、ひととおりのことはしてみたのですがね」 ひととおりのこととはなんだろう。 気になったが、聞くのはやめておいた。 3 作話トップ |