陽炎が揺れていた。太陽の光は強すぎる。全てを暴き出してしまう。延々と白い家が続く街はますます白く、その裏にできる影は一層暗い。 乾燥した埃っぽい風すらいつしか止まっており、ほとんどの人間は太陽の容赦ない光と熱から逃げ、街から姿を消していた。 遮るものの何一つ無い屋上は酷く暑く、更にコンクリートの照り返しが熱気を倍増させる。南中を少し過ぎて、消えていた影が再び現れた。 額から頬に汗が伝う不快な感触があったが、男はぴくりとも動かない。一瞬の為に、六道骸はそこに居た。息を潜め、地に這い、狙撃用の銃のスコープを覗いて、ただ、待っていた。そろそろ時間だ。赤い右目がぎらりと輝く。 白日の下で、彼の視線は何にも遮られず、また、彼自身もさらけ出されていた。 『モノトーン・白』 スコープの中には、豪華で荘重なドアが映っている。歴史と伝統をまとったそれはいかにも重そうで、 何もかもを平面的に見せる真昼の光の中でも、暗く重い色をしていた。 そしてやがてドアが動いた。黒の正装をした男たちが、何人も出て来る。一人、二人、三人、四人、五人、 六人、骸が数えるのをやめたところで、彼がようやく現れる。ただ一人白いスーツに身を包んでいた。身を黒い男たちが、深々と頭を垂れた。 背丈はそれほど変わっていないように見えた。それに、体格も劇的な成長はなかったようだ。 彼は、か細く貧弱で、どこもかしこも華奢だった。今でもスーツよりもTシャツやデニムが似合いそうで、 祝い事に引っ張り出された学生のように見えた。場所もわきまえず、銃を構えたまま骸は苦笑した。 口を歪めている間に、彼がスコープの中に入った。小さな顔が、照準の十字で切り分けられる。骸の右目を占めて、彼はやはり変わらない、困ったような苦笑を 浮かべて、隣の人間と話している。骸は、引き鉄にかけた指に力を込めようとした。その時だった。 ふと、彼が顔を上げた。 強い視線が、まっすぐに六道骸を見る。 まさか、ありえない、偶然だ、骸が夢想と決め付けた時だった。 やせた右手が、ゆっくりと上がる。似合わない重そうな指輪をはめた指が、左胸、心臓 の真上に置かれた。その姿は偶然にも、祈りを捧げる姿に似ていた。 十字に仕切られた円の中心で、沢田綱吉が微笑んだ。 黒 back |