5.
   沢田綱吉は宇宙への旅に出た。しかし、旅客用シャトルではない個人用の宇宙船とは言え、 ほとんどのことはコンピュータ制御の船自身が勝手にやってくれるので、綱吉がすることは ほとんどない。その上、そのほとんどのこと以外のことは六道骸がやってくれた。よって綱吉にはすることがまったくなかった。 「ただいま帰りました」
 骸は今もビープ音に呼ばれて行って、船室に戻ってきたところだった。
「……ご苦労様。なんだったの?」
 役立たずの自覚はある。居心地の悪さに後押しされて、綱吉は苦手な骸を気遣った。
「船倉にゴキブリが」
「ひ」
 大嫌いな昆虫の名を聞いて、綱吉はさっと青ざめた。年々人間の手によってさまざまな動植物が滅びつつあるが、この昆虫だけは人類の発展 と共に繁栄し続けている。
「警戒レベルを上げたらあんな取るに足らない生き物にまで反応して、まったく機械と言うのは融通が 利きませんね」
 肩をすくめる。そうしていると、いや、大概の状況において、六道骸はまったく人間と変わりなかった。
「そ、そうだね」
「骸、俺がすることは……ないよね」
 骸の苦笑を見て、綱吉は途中で言うことを変えた。
「お暇なのはお察しします。この、ある週間少年漫画誌でも読んだらどうですか」
 意味はわからないがにこにこと笑いながら、骸は分厚い漫画雑誌を取り出した。ノスタルジックにも 紙媒体である。
「そういう意味じゃ……うん、ある週間少年漫画誌でも読むよ。普通の中学生がある日突然マフィアにされる漫画の 続きが気になってたんだ!」
 言い返そうとして、綱吉は意思の疎通を早々に諦めた。
「それは良かったですね」
 骸は笑顔だ。

   その時、強い衝撃と同時に、再び警報が鳴った。









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