2. 「そういえばさ」 そのときも不意打ちだった。 「なんでツナって六道骸のこと嫌いなんだ?」 「は?」 山本は時々唐突だ。(ほんの少しだけ綱吉は故意を疑っているが、絵に描いたような 好青年の彼に限ってそんなことはないだろうと、疑念が湧くたびに無理やり打ち消している。) 今も、展望室で地球を見ながら、山本の最近の稽古相手の話をしていたのだ。 「何を急に……」 油断しきっていた所に予想外の質問をされて、綱吉はうろたえた。 「前から密かに気になってたりして」 照れ笑いする顔に邪気はない。 「なんか刑事みたいだよ、山本」 コロンボかと言いかけてやめる。山本は20世紀の刑事ドラマを見ない。綱吉は案外見る。 「ははは、そっか?」 目を細くして白い歯を見せて笑う顔には、やはり嘘も裏も見えない。綱吉はため息を ついた。 「……別に嫌いじゃないよ」 「そっか? でもツナ、あいつ見てる時顔固まってるぞ」 「……ううう」 図星をさされてうなる。 「けっこう驚いた。俺、ツナはあーゆう顔好きだと思ってた」 「……好きって」 言外に面食いだと言われてしまって、綱吉は更に詰まる。そう言う山本本人は、 男でも憧れる精悍な姿をしている。 「……嫌いっていうか……」 綱吉はことんと首を傾けた。考え込む姿を見て、山本は黙って見守ることにする。 「……いや、やっぱり嫌いなのかな」 しばらくするとぽつりと言葉がこぼれた。 「……あんなに、人間そっくりなのに、人間じゃないことに、 どうしても違和感感じちゃってさ……」 普段から言明を避ける彼が、いつもにも増して言いよどんでいる。 「たくさんいて、どれも生きてるのに、全部でひとつで、個がないっていうのが、どうしてもわからない……」 そこまで言って、首を振る。 「いけないよね、こういう感情は。異質な存在への恐怖は、差別と争いの温床だ」 そうやって綱吉は苦笑いして見せた。 (王の顔だ) 半年前には、けっしてこんな顔をすることはなかったのに。山本武は、親友の成長に 喜びと失望を覚えた。 「まあ、種類としての違いがはっきりあるから、気味が悪いのもムリもないだろ」 あっさりと言い捨てた山本に、綱吉が驚く。 「山本は…」 「ボンゴレ」 第三の声が割って入る。思わず聞きほれそうな、甘やかな声。 「お、六道」 「骸!」 噂をすれば影だった。真っ白な顔に乗った色違いの瞳が綱吉に微笑んでいた。 「お仕事です」 表情は柔らかいが、言葉は簡潔で事務的だ。 「わかった。俺?山本?」 返す綱吉の言葉にも無駄がない。 「あなたです」 「一人?」 「僕と一緒です」 「わかった」 すっかり心を削いだ顔をして、綱吉は立ち上がった。 「いってらっしゃい。気をつけろよ」 「うん。ありがとう、山本。また今度剣の話聞かせて」 「おう」 笑顔で手を振った山本に、綱吉も右手を上げて答える。六道骸は山本には一瞥もくれずに綱吉の 後ろに従った。 綱吉は、俺はボンゴレではないと言おうとしてやめた。同じことをもう三度繰り返していたのを、 思い出したのだ。 3 作話トップ |