1. 空には丸い地球が浮かんでいる。 沢田綱吉は、青く光る惑星を口を半開きにして眺めていた。 「やはりこちらにおいででしたか」 「獄寺君」 「また地球見てんのかツナ」 「山本も」 知った声に、青い星から目を離す。いつのまにか友人たちがそばまで来ていた 。獄寺隼人はかしこまった仕草で頭を下げ、山本武は白い歯を見せて笑った。 「うん。情けない話なんだけど、いまだに実感なくってさ」 「はは、言えてるな」 綱吉も少し笑うと、もう一度地球を見上げた。 「自分が月にいるなんて、半年前は想像もしなかったよ」 現在、彼らは地球の唯一の衛星、月の住人だった。『空』を見上げる姿に、獄寺隼人がどこかうっとりした 声音で呟いた。 「やはり、似ておられるのですね」 「え?」 「初代ボンゴレも、ここから見える地球をたいそう愛しておられたそうです 。慈悲深い初代は元は私室だったのを、 遺言でこのように展望台になさったのです」 観光ガイドの流暢さでとうとうと語られる説明に、綱吉は苦笑する。 「……そうなんだ」 「さすが十代目です」 笑みにさらに苦いものが混ざる。獄寺の敬愛のまなざしから、綱吉は目をそらした。 「やめてよ……俺はボンゴレじゃない」 「十代…沢田さん」 獄寺の声が途端に弱くなる。 「お」 気まずい空気をなかったことにしようとしたのか、山本が声を上げた。 「何?」 内心安堵しながら、綱吉は山本に答えた。 「んだよ、うるせえな」 獄寺は綱吉以外には過剰に横柄だ。 「あれ」 しかし山本は気にした風もなく、吹き抜けの階下を指で指した。 「六道骸じゃねえか。つまんねえもん見せんなよ」 不機嫌そうに獄寺が言う。その声を聞いて、綱吉はかすかに眉をしかめた。 「……ほんとだ」 六道骸が一人、立っていた。 「つまんなくもないだろ。キレーな顔してるよな。基本パーツは人間とおんなじなのに、なんでああも出来上がりが違うんだろな。な−ツナ?」 「さ、さあ……」 綱吉は飛び切り曖昧な笑みを浮かべた。 「答え辛えネタ振んなよ。十代目がお困りだろうが」 「獄寺くん、なんかそれ違う」 獄寺の振ったネタに答え仕方なく六道骸に目を向ける。 六道骸は真空の世界とコロニーを仕切る強化素材の窓に片手をついて、さっきまでの綱吉と同じように地球を見ていた。 しみ一つない真っ白な顔の上に完璧な位置に配置された美しいパーツ、どこかメタリック な輝きを有するコバルトブルーの髪。それがなぜか稲妻状の分け目とある種の地球起源 の果物を連想させるシルエットにセットされているのが不審だが、それを横にどかせば確かに、人種や性別を超越した美しさだ。 「うん、まあ、山本の言うとおりだよね。綺麗なんじゃない」 その声が届いたはずはない。だが、まさに綱吉が投げやりにそう言ったタイミングで、六道骸が顔を上げた。 「お、こっち見た」 「げっ」 「……」 三者三様の反応、事実をありのままに口にしたのは山本、あからさまに不快そうなのは獄寺、 そして微妙な表情になって沈黙したのが綱吉である。 六道骸の方はと言うと、綱吉を見て華やかな笑みを作った。理由がわからない。綱吉は恐怖に駆られた。 2 作話トップ |