放置すれば永遠に続きそうな再会の抱擁を(綱吉が)必死に終わらせて、綱吉は美女、の体を被ったもの、と向かい合ってソファに腰掛けた。彼女、と呼ぶしかない、は隣に座りたがったが、綱吉はやんわりと強硬にそれを退けたのだ。
「お早いお越しで」
青褪めた微妙に顔を逸らしつつ、綱吉は投げやりに歓迎する。
「ただ、ただ、あなたの元に行きたい一心で、海なんてひとっとびに駆けつけて参りました!」
大きな瞳を潤ませるのはともかく、手のひらを胸元で組むのは演出過剰だと思ったが、意見する気にはならなかった。
「『彼女』はやっぱり、例の?」
「Si.さすが英明なるドン・ボンゴレ。ご推察の通り、『コレ』が僕の仕事の成果です」
「じゃあ、あなたに頼んでいた情報は……」
「ええ、ココに」
美女はコケティッシュな仕草で首を傾げ、長い爪の先で自分のこめかみをつつく。
「……それは、ありがとうございます。……むくろ、さんに限って、失敗して自殺、なんてことはありえないとは思っていましたけど」
「けど?」
「よりによって、また、スゴイカラダですね……」
言いながら既に後悔していたが、たった一人で世界の崩壊を防いできたツッコミ要員としては、指摘せざるを得ない。すると途端に美女(変態でいい変態で!いくら上っ面や骨格や血が綺麗でもさらさらでも、変態は変態だ!と綱吉は言った。内心で。)改め変態は、我が意を得たりとばかりに微笑んだ。
「お気に召しました?どうです、なかなか素敵でしょう」
「は、はあ、あー、まあ……」
母国語の特性を最大限発揮して、曖昧な表現を続けつつも、視線がつい胸元に行く。と、持ち主の両手が二つの盛り上がりをわしづかんだ。
「ひぃ!」
「さっきから気にしてらっしゃるこちらもちゃんと本物です。最近多いですからね、偽物」
「わ、わかったからやめてください」
さっきより急角度に顔を逸らし、更には片手で目を覆いながら、ほらほら、ほらほらほらと豊かな乳房を揺らしてみせる変態に懇願した。
「良かったら触ってみませんか?大きいだけじゃなくて、感」
「あんた最低だぁ!!」
危ないところで遮る。彼には世界の品性と倫理を守る使命もある。
「大事なことでしょう?クフフフ、初めて接触した時から、ちょっといいなあって思ってたんです。センスは醜悪でしたが、もの自体はこの通り中々でしたし、健康状態も良好。あ、安心してくださいね、セックスでうつる病気も持っていません」
そこで一旦言葉を切って、骸は左右色違いの目をうっとりと細めた。
「特に肌はとても綺麗で……剥がしてブックカバーにしようかと思いました」
「しないでくださいね!」
「やだなあ。自傷癖はありません。好きな人に傷つけられるのでないと、気持ちよくなりません!」
即答して、変態は綱吉の腰の辺りをじっとりと見つめる。そこに愛用の鞭が隠されているのを知っているのだ。背筋を何千匹もの蛭が這うような悪寒に襲われて、綱吉は思わず目の前の美女の体を被ったド変態を殴りそうになった。だが、拳を握り締めて衝動を押し殺す。ここで殴ったら奴の思う壺だと、望まざる長い付き合いの中で学習していた。
「どうして一瞬でもこんなのに見とれちゃったんだろう……」
「見とれてくれたんですか?」
まあ嬉しい、と口元に手を当てて骸は笑みを深めた。
「主旨はそっちじゃないでしょ!」
「大急ぎで伺った甲斐がありました」
光速のツッコミは気持ちよく無視される。
「……まさかとは思いますが、この体に映る為に、前の体……タカハシ・コタロウを殺したんですか」
「そうです」
つづき