綱吉がくすりと笑った。
「なに」
「怒らないですか?」
「なにそれ」
「怒らないなら、言います」
「聞いてから決めるよ」
「ヒバリさんも桜におかしくなってるのかなって思って」
「おかげさまで相変わらず気分は悪いよ」
 そうじゃなくて、と言って綱吉は微笑んだ。その笑みは相変わらず臆病そうで、気弱そうだ。
「昨日、なんで殴られたか考えていたんです」
「……」
 その癖、案外言いたいことを言う。
「………照れたんでしょ?」
 …………。
「ゴゴゴメンナサイ!」
 …………。
「ひ、あ、い…いたいいたいいたいですヒバリさん!」
 …………。
「ごめんなさい!ごめんなさい!許してくださいヒバリさん、ヒバリ様!」
 …………。
「………あれ?ヒバリさん?」
 眩暈が。
 突然、視界がぐにゃりと歪んだ。全てのものが輪郭を失って、混ざり合う。
「ちょ、大丈夫ですか、ヒバリさん?」
 酷い耳鳴りがする。
 音ではない音が、聞こえる。頭の内側から殴られているような気分だ。鳥の声も、遠い街の音も一瞬で消え去り、綱吉の声だけが聞こえた。
 やがて、ラジオの電源を切るくらいの唐突さで、それも途切れた。
 


 後はもう何も聞こえず、何も見えなかった。





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