綱吉がふと隣を見ると、六道骸と視線が合った。当然だ。彼はいつも綱吉を見てい るのだから。視線が合っただけで嬉しくてたまらないといった、華やかな笑顔を零 されて、綱吉は彼を殴り飛ばしたい衝動に駆られた。 綱吉の小さくて華奢な、人を 殴るための形に握れば関節の骨が刺さりそうに尖る手は、見かけを裏切って効果は 絶大だ。沢田綱吉は短身痩躯のパワーファイターだった。 思わず握っていた拳を開いて、綱吉は代わりにもしも彼を殴ったらどうなるかを想像した。 今は薄赤く紅潮している白皙の顔の中心に拳をぶつければ、盛大に鼻血を吹き出し ながら倒れることだろう。それはとても胸のすく光景のように思えた。少なくとも、 この苛立ちと不快感は晴れるだろう。 「ボンゴレ」 「俺はボンゴレじゃないって言ってるだろ」 律儀に訂正してから、綱吉は骸の顔を見た。 対する男は相変わらず微笑んでいたが、綱吉の視線を捕らえた途端に、酷く真摯な表情を作った。 「……なんだよ」 まっすぐな眼差しに感じてしまった気後れを消し去りたくて、綱吉は骸の言葉を望んだ。 それでも骸は、しばらくの間黙って綱吉を見つめていた。そして、やっと唇を開いた。 「好きです」 今度こそ沢田綱吉は六道骸を渾身の力で殴り飛ばしていた。イメージ通りに高い鼻筋の真ん中に、 拳が当たって、骸は鼻血を飛ばしながら後ろに倒れていった。天を仰いで地面にぶつかるその瞬間も、 彼は魅力的な笑顔を浮かべたままだった。 「笑えない一発芸みたいだな」 苦手な牛乳を毎日飲もうが、更に苦手な訓練を毎日修めようが、一向に大きくならない、 小さく華奢な拳をしみじみと眺めて綱吉はそう呟いた。骸が意識を失ってしまっているから、 ひとりごとである。その拳には返り血が飛んでいた。ティッシュがなかったので、骸で拭いた。 むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。 沢田綱吉は後にそう語ったらしい。 作話トップ |